礼法
かつて日本人を評する言葉に礼儀正しさ、真面目、勤勉さなどが挙げられていましたが、今もそうなのでしょうか? 人々のちょっとした心遣い、気配りの積み重ねが日本人全体のそんな評価へと繋がっていったのではないでしょうか。
礼法とは人間が仲良く、幸せに、そして美しく生きていく為に必要な基本となるものです。全てのものを大切に思い、感謝と尊敬の念を持ち、その心を形に表すことです。それは長い伝統に基づいた日本人の精神文化の一つです。
農耕民族である日本人は古代から自然を神と崇め、畏敬の念を抱いてきました。豊な自然の恵みに感謝を捧げ、また自然の脅威に恐れおののきました。これが神と人との関係に於ける礼の始まりです。それは今でも各地で収穫に感謝を奉げる祭りとして残っています。
やがて国家が生まれ、人と人との間に上下関係が生じ人と人との関係における礼が生まれます。長い歴史の中で勢力の強い階級が規範となり古代の公家社会では公家礼法が、つづく中世の武家社会では武家礼法が整えられてきました。そして近世の町人の間での礼法や近代の国民の中にも相手を大切に想う心、和の精神として受け継がれてきました。しかし戦後、近代化の流れの中で、核家族化が進み、それまで行儀・作法、躾、しきたりとして親から子へと伝えられていたことがだんだんと薄らいで来てしまいました。
小さい頃から家族揃っての食事の中で正しいお箸の持ち方や食事の戴き方を覚え、年長者の上手な箸使いを見ながら習い学んできた方がたくさん居られる筈です。居住空間の違いや生活環境の変化で、それまで地域社会の中で自然に身に付けてきた挨拶や上下関係、言葉遣い、公共の場に於ける礼などを意識する機会が少なくなってきたのかも知れません。
歩道を歩いていて自転車に追い越されるときに‘すみません’の一言があったり、雨の日に傘と傘がぶつからないようにさりげなく傾けて避け合ったりすると自然に心が和みます。
礼法は堅苦しいものではなく日常生活における挨拶やお辞儀から言葉遣い、美しい立ち居振舞い物の受け渡しや食事の戴き方、箸使い、上下関係また日本人の清浄心や慎みの表現から生まれた折形礼法など社会生活における人間関係を円滑にするために欠かせない大切なものばかりです。
和室文化の中で育ち伝えられてきた礼法ですが生活様式の変化にともない西洋のマナー、エチケットをも取り入れ伝統文化を継承しつつも現代生活に適応した礼法を今、学び始めている方が増えているところです。
礼は心の表現です。自分の心を美しく形に表すことを学んでみませんか?
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